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節子院長の日々雑感「うましめんかな」

こわれたビルディングの地下室のよるだった。

原子爆弾の負傷者たちはローソク1本ない暗い地下室をうずめて、

いっぱいだった。

生臭い血のにおい、死臭。

汗くさい人いきれ、うめきごえ

その中からふしぎな声が聞こえてきた。

「あかん坊が生まれる」というのだ。

この地獄のような地下室で

今、若い女が産気づいているのだ。

マッチ1本ないくらがりで

どうしたらいいのだろう

人々は自分の痛みを忘れて気づかった。

と、「私が産婆です。私が産ませましょう」

と言ったのは

さっきまでうめいていた重症者だ。

かくてくらがりの地獄の底で

新しい生命は生まれた。

かくてあかつきを待たず産婆は

血まみれのまま死んだ。

うましめんかな

うましめんかな

おのが命捨つとも

 

これは教科書にも載っている栗原貞子さんの詩です。栗原さんはこう言っています。教科書にも載っているので感想文をよく貰うのだそうです。多いのは「産婆さんはえらい」というものです。でも、ひとりの人の立派な行為をほめるだけではなく、作品の世界を感じ取ってほしいと思います。真っ暗のなか、みな傷つき、それでも何とか、無事に赤ちゃんを産ませたいものだと考えている。人間がぎりぎりのときに、それでも何とかしたい、助けてあげたいと思うものなのです。自分の命を落としても、赤ちゃんを産ませた産婆さんをほめたのではなく、人間全体をほめた詩なのです。

「うましめんかな」には、平和を産みましょうという気持ちがこもっているのです。

「暁(あかつき)を待たず」というのは、8月15日の平和の日を意味しています。

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