28 Jul 2022
こわれたビルディングの地下室のよるだった。
原子爆弾の負傷者たちはローソク1本ない暗い地下室をうずめて、
いっぱいだった。
生臭い血のにおい、死臭。
汗くさい人いきれ、うめきごえ
その中からふしぎな声が聞こえてきた。
「あかん坊が生まれる」というのだ。
この地獄のような地下室で
今、若い女が産気づいているのだ。
マッチ1本ないくらがりで
どうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です。私が産ませましょう」
と言ったのは
さっきまでうめいていた重症者だ。
かくてくらがりの地獄の底で
新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は
血まみれのまま死んだ。
うましめんかな
うましめんかな
おのが命捨つとも
これは教科書にも載っている栗原貞子さんの詩です。栗原さんはこう言っています。教科書にも載っているので感想文をよく貰うのだそうです。多いのは「産婆さんはえらい」というものです。でも、ひとりの人の立派な行為をほめるだけではなく、作品の世界を感じ取ってほしいと思います。真っ暗のなか、みな傷つき、それでも何とか、無事に赤ちゃんを産ませたいものだと考えている。人間がぎりぎりのときに、それでも何とかしたい、助けてあげたいと思うものなのです。自分の命を落としても、赤ちゃんを産ませた産婆さんをほめたのではなく、人間全体をほめた詩なのです。
「うましめんかな」には、平和を産みましょうという気持ちがこもっているのです。
「暁(あかつき)を待たず」というのは、8月15日の平和の日を意味しています。